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森雅之先生の傑作『遠く』について、読者さまへのお詫び



 「総合マンガ誌キッチュ ワイズ出版第二号」責任編集の呉です。

 「総合マンガ誌キッチュ ワイズ出版第二号」に掲載されている、森雅之先生の書き下ろし作品『遠く』ですが、責任編集の私が同作品を無声マンガと誤認してしまい、全編のネーム(セリフ)がないまま掲載してしまいました。

 多くの愛読者がご存知のように、森雅之先生は『月刊漫画ガロ』のほか、いくつものマンガ雑誌で幅広く活躍されている漫画家です。デビュー作『夜と薔薇』を映画監督の平野勝之氏が「暮らしのアナログ物語」というネット連載で「手紙のような本。38年間愛読した漫画」として取り上げられています。

 小誌が森雅之先生とご夫人森環先生に作品のご依頼させていただく機会に恵まれたのは2017年2月ころでした。ちょうどキッチュが「総合マンガ誌キッチュ ワイズ出版創刊号」として同人出版から商業雑誌に変貌する頃でしたが、森環先生が制作された「怪奇 2016年 創刊号」の表紙に引き込まれる魅力を感じ、Twitterでお声かけさせていただくことがきっかけでした。森環先生からは、ご夫婦ともに「ワイズ出版第二号」にご寄稿くださることが可能と伺いました。あの森雅之先生の作品をキッチュにと、あの興奮はいまでも覚えています。

森雅之先生の傑作『遠く』と、ネーム(セリフ)が掲載されないまでの経緯



 先生よりデータ入稿をくださったときに、いくつの種類のデータを送ってくださいました。当時呉の編集環境では開くことができるデータの種類が限られていて、タイトルと作者名以外にセリフのない確認用データのみ開くことが出来ました。

 目に入るのは、今まで心酔した森雅之先生の整えられながらも、決して機械的ではない温かみのある作画でした。読む人を迎えるのは黒い人影。月を見上げるその姿に私には「旅」を思わせましたが、次に目に入るのは病院と、そこに通う少女がいました。病人には見えない彼女は、入院中の家族と会いに行っていることは明らかのように思いました。点滴と、入院生活に必要なもの、病院で買い物したであろう伝票などで、表情を変えない彼女の姿が次第にけなげに見えてきます。

 私の中で、森雅之先生の『遠く』は、はやく母に立たれた私の妻の体験と、入院生活で最後に息を引き取られた私の編集の先達との記憶と次第にリンクすることになりました。作品の中で現れる「月」も、冒頭の黒い人影と少女のリンクのように感じました。だとしたら黒い人影が歩く山の遠景に続く「道」は、人間の「生(せい)」の道なのか、「死後」の道なのか…まさしく題名の『遠く』そのものではないかと、感じました。

 あくまでも私が読み取ったメッセージでしたが、これは無声マンガである確信を持って、私はほかの種類のデータ――ネーム(ネーム)が付いているデータ――を開いて確認しませんでした。そして印刷場に送る前に、デジタルの「ゲラ」を森雅之先生に確認して頂くことを、しませんでした。

 この重大な過ちから、私が無声マンガと思いこんでしまった森雅之先生の『遠く』はこうして、セリフがないまま、掲載に至りました。

発覚後の責任編集の対応



 そのことが発覚したのは、献本が届いたとの知らせとともに、森雅之先生のご夫人の森環先生が下さった一通のメールでした。重大な過失であるにも関わらず、寛大な措置をしてくださり、読者の皆様にはネーム(セリフ)が入っている原文のバージョンをインターネット上での公開、過失の経緯説明とともに、弊誌公式ページとお詫びの文章を添えさせていただきました。

 読者の皆さま、「総合マンガ誌キッチュ ワイズ出版第二号」版元のワイズ出版さま、なにより著者の森雅之先生に、心よりお詫び申し上げます。

森雅之先生のメッセージ


『めったにないことなので、2パターンの漫画をお楽しみください』



『遠く』の完全版はこちらより閲覧できます。



総合マンガ誌キッチュ責任編集 呉 塵罡(ゴ ジンカン)